のだめカンタービレ

のだめカンタービレ 強烈なキャラクターの音大生たちがクラシック音楽に真摯(しんし)に向き合う姿をギャグ満載に描いたそのギャップ感が意表を突く、音楽ドラマの快作。音楽一家に育った千秋真一(玉木宏)は桜ヶ丘音楽大学のピアノ科に在籍しながらも、密かに指揮者を目指している。しかし、子どもの頃のトラウマから飛行機にも船にも乗れないため、ヨーロッパに留学して音楽を学ぶ道は閉ざされている。絶望にさいなまれるままに泥酔してしまった千秋はその翌日、気まぐれに歌うようなピアノの音色に惚れ惚れと目覚めるが、意識が鮮明になってくるとそこはゴミ溜めと化した同じくピアノ科の後輩・野田恵、通称のだめ(上野樹里)の部屋だった。
それぞれに個性の強い演奏者たちが一堂に会するのがクラシックのオーケストラ。そんな誇り高き面々と独裁者たる指揮者がぶつかり合う場ゆえに、オーケストラのリハーサルはめっぽうおもしろい。当然、世界的巨匠・フランツ・シュトレーゼマン(竹中直人)が選りすぐりの風変わりな学生たちを選抜して組織したSオケを、千秋が指揮することになる展開がおもしろくないはずがないのである。

実写の強みをフルに生かしたクラシック音楽の魅力は全編に散りばめられており、コミック的な映像処理をほどこしたドタバタやベタギャグがどれだけ連打されようとも、音楽はすばらしいという世界観が揺らぐことがないのは頼もしい限り。ドラマ中のBGMが基本的にクラシックのみという徹底ぶりも潔い。とりわけ、テーマ曲としてベートーヴェン交響曲第7番をピックアップしているところが、まさにこの作品のスタンスを物語っている。つまり標題のある「運命」や「第九」といった有名曲に比肩する名曲をドラマの中心に据えているのだから、クラシックになじみのない視聴者へのフレッシュなインパクトはいっそう強いはずだ。この物語が非クラシックファンへのクラシックの訴求を任としているとすれば、これほどに真っ当な選択肢はないのである。

コンスタントに奇声を発するその日常ともども、エキセントリックなまでにピアノに熱狂するその弾き姿が天才肌のそれっぽくて説得力満点なのだめ役の上野樹里と、ひやっとするほどにクールな千秋役の玉木宏とのバランスも絶妙。クラシック音楽とコミカルな笑いとを融合させた大変貴重なドラマである。なお、第1話には千秋の音楽の恩師・指揮者のセヴァスチャーノ・ヴィエラ役で、人気指揮者のズデニェク・マーツァルが登場する。(麻生結一)